2.歴史画ワールド
1)この国のストーリーを描く
小幡春生。この作家は多様なジャンルに取り組んでいる。
天の岩戸の前で楽しく音曲を奏で、天照大御神に岩戸を開けさせる神話から、王朝時代、鎌倉時代、安土桃山時代までのさまざまな歴史を、時代を追って描き続けている。
この日本という特異な、高い文化を生み出しつつロマンあふれる歴史ストーリーを持つ国を、そして人間に深く愛着を持っていたのだ。
しかし、ここでも春生は勝手な解釈で絵を描くことはしていない。
「よく図書館へ行っていましたね。歴史考証にはとても神経を使っていたようです」と、長男の小幡龍生氏は父を語る。
龍生氏の語るように、春生は自らの作品にどこからもクレームをつけられることを嫌い、詳細に考証して描いていたようだ。
2)行きた証として
しかし、絵画は芸術である。事実をありのままに描写すればよいわけではない。勢いその作品には作者の感性が表現されている。それはまず、何を描こうとするか、というモチーフの選択にあり、構図に、登場する人間たちの姿に、そして表情に、登場人物と同時に作者の感動が、緊張が、恐れが表されているのだ。
そしてその人間たちを生き生きと活動させるために、背景にも十分な配慮がなされている。
歴史画は多くの場合、その歴史的事実を淡々と描いている。そのため絵からその登場人物たちの心を読み取ることが難しい。しかしこの春生の歴史画はどうだろうか。
生前、春生は自らの歴史画を「私の生きてきた証として残しておいて欲しい」と周囲に語っていた。日本の歴史の中に自分も生きていたかったに違いない。
さて、理屈は抜きに、小幡春生の描く歴史ワールドをご堪能ください。
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